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【米村元治さん】川柳で漢字を楽しもう(7)

漢字の雑学や成り立ちを楽しもう(その5)

ヨネ:やあ、クマさん、こんにちは。前回に徳富蘇峰、徳冨蘆花兄弟の「とみ」の字が異なっているという話があったから、
   それをネタに川柳を作ってみたよ。その他に「経営」という言葉、「余」という字を川柳にしてみたんだ。

クマ:おー、僕の質問に対する答えと、ヨネさんが熱心に取り組んできたコンプライアンスがらみであろう「経営」と、
   余裕の「余」についてだね。楽しみだ、聞かせてよ。

ヨネ:「経営」と「余」については、察しがいいね。じゃー、徳冨兄弟の川柳から聞いてくれる?

クマ:お願いします。


■冨の字が 兄弟の不和 示す也(とみのじが きょうだいのふわ しめすなり)

ヨネ:徳冨兄弟は仲が悪かったようで、兄の蘇峰は姓に「うかんむり」の「徳富」の字を使ったんだけど、弟の蘆花は
   兄と同じ字は使わないと「わかんむり」の「徳冨」の字を使い続けた。そのことを詠んだのがさっきの川柳なんだ。

クマ:兄弟仲が悪かったんだ。ところで弟の蘆花が「使い続けた」という文言が気になるね。

ヨネ:気になるかい? 実は僕も初めて知ったんだけど、本名は「わかんむり」の「徳冨」なんだって。てっきり、「うかんむり」の
   「徳富」が本名で兄の蘇峰がそれを使い、弟の蘆花がそれに反発して「わかんむり」の「徳冨」としたと思っていた。
   なぜ兄の蘇峰が「うかんむり」の「徳富」に変えて、弟の蘆花が「わかんむり」の「徳冨」のままで通したのかについては、
   二人が若い頃に慣れ親しんだ学問や、思想上の対立が影響しているようなんだ。

クマ:ああ、そうなの。二人がどういう勉強をしたのかとか、人となり、足跡を教えてよ。

ヨネ:うん。
   兄の徳富蘇峰は、熊本洋学校、東京英語学校を経て同志社英学校に入学するが、中退。その後、民友社を創立して
   月刊誌『国民之友』を刊行し、また国民新聞社を設立して『国民新聞』(後の東京新聞)を刊行した言論人だ。
   若い頃の一時期、漢学の勉強に励み、号の蘇峰は名峰「阿蘇山」に因んだ雄大なもの。
   弟の蘆花も同志社英学校に学んだものの、中退。若い頃、英語の勉強に傾倒。
   蘇峰の民友社社員を経て、『不如帰(ほととぎす)』により文壇に独自の地位を確立した小説家だ。
   号の「蘆花」は「蘆(あし)の花」という地味なもの。

クマ:対照的な兄弟だね、でも対照的だから仲が悪いとは限らないよね。なんでそんなに仲が悪くなったんだろう。

ヨネ:順を追って説明します。兄の蘇峰が「わかんむり」の「冨」を「うかんむり」の「富」に変えたのは、漢学の影響で
   「漢字は正字を使った方がよい」という知識に基づくもの。一方、英語の勉強に傾倒していた蘆花は、漢字に関しては
   それほどの知識がなく、「本名だから」という理由で「わかんむり」の「冨」を使い続けた。

クマ:僕が蘆花だったらそうするよ。反発じゃなくね。何も問題ないと思うけどね。

ヨネ:その後が問題なんだ。蘆花は、1903年に国家主義的傾向を強める兄との思想的対立で民友社を退社。自費出版した小説
   『黒潮』の巻頭に兄への告別の辞を掲げたんだ。その中で、兄・蘇峰が「経世の手段」として「国力の膨張に重きを置きて、
   帝国主義を執」るのに対して、「余は……人道の大義を執り、自家の社会主義を執る」とまで言いきり、大きな反響をよんだ。
   その後も何かにつけて兄に反発した。また「徳冨」の表記にもこだわった。

クマ:ああ、そこまでいくと感情的なものだね。そうすると、「わかんむり」の「徳冨」を使い続けた理由は、当初には感情的なものは
   なかったが、思想的な対立に伴って「兄貴と同じ字なんか使えるか」という気持ちになってきた、ということだね。
   きっと出版社なんかが間違って「うかんむり」の「徳富」と表記したりすると、
   「わかんむり」の「徳冨」に訂正しろと怒ったりしたんだろうね。想像だけどね。

ヨネ:兄弟の不和の理由について、分かっているようなことを言ったけど、一家の旧居を保存する徳富記念園(熊本市)の
   園長によると、蘆花の蘇峰への感情は、単なる劣等感や、長じてから生じた思想的な対立などでは片付けられないほどの
   屈折したものがあったということだ。だから、これまで不和の理由として説明されてきたものは不和の理由の一部で、
   本人しか分からないことが大部分かもしれないね。でも、救いと言えるのは、蘆花が亡くなる直前にお互いを認め合って、
   仲直りしたらしい、ということだ。

クマ:そうか、それは救いだね。もしも次の世界があればだけど、その世界で兄弟が仲良くしてればいいね。

ヨネ:そうだね。次いこうか。


■経営は ルール遵守の 戦いだ(けいえいは ルールじゅんしゅの たたかいだ)

クマ:「経営」っていう言葉にそんな意味があるの?

ヨネ:辞書にはそんなことは書いてないが、「漢字の意味から解釈すると、こうだよ」ということ。まあ、僕の願望かもしれないね。
   説明を聞いてくれる?

クマ:聞きます。いや、聞きたい。

ヨネ:じゃあ、「経」「営」という漢字の成り立ちから見ていくよ。
   「経」の旧字体は「經」で、「糸」+「?」。「?」は、「上の枠から下の台へ、たて糸をまっすぐに張り通したさま」
   を表している。だから「經」は、「たて糸」の意だ。転じて、「時代を貫いて伝わる不変の道理、不変の筋道を説いた書」
   の意ももつようになった。
   「営」の旧字体は「營」で、「火」+「火」+「宮(の略体)」。
   「火」+「火」は、「炎が周囲を取り巻くこと、かがり火」を表している。
   「宮」は、「建物」。だから「營」は、「周囲にかがり火や垣をめぐらした陣屋や住まい」を表している。
   この二つの字の成り立ちを踏まえて、「経営」は、「ルール遵守の/戦い」であると解釈し、さっきの川柳を詠んでみた。
   コンプライアンスに取り組んできた僕にとっては、「経営」とは、
   「方針を定め、組織を整えて、目的を達成するように持続的に事を行うこと。特に会社事業を営むこと」
   という辞書的な意味だけでは、不十分なんだ。これだったら、ルール無視の悪徳会社でも「経営」できる、
   「経営」してよい、ということになる。確かに現実には、そういう会社も存在している。
   でも、僕はそんな会社は認めないし、そんなのは「経営」ではなく詐欺だと思う。
   僕の説明を聞いて、クマさんどう思う?

クマ:確かに。コンプライアンスに熱心に取り組んできたヨネさんから見たら、悪徳会社のルール無視の「経営」には肝心なところが
   抜けていると感じるだろうね。気持ちは、よく分かるよ。
   だけど現実には、悪徳会社というかブラック企業(会社)が一杯あるし、永久になくならないと思う。残念だけどね。
   そういう会社を何らかの対策をとって、少しでも減らすしかないよね。

ヨネ:その通りだね。悔しいけど完全になくなることはない。でも、それを減らすことはできるし、減らさなければならない。
   いじめに対する対策と同じだと思う。ルール違反をした会社や、それを見て見ぬふりをした監査法人・会計事務所に対しても
   より厳しいルールが必要だよ。見て見ぬふりをする会計士も多いんだ。
   僕はそういう会計士には、「こことここは会計士の職務として、トップに指摘し、改善指示を出して下さい」と要請していた。
   それでも指摘しない場合には、「あなたは『会計士』ではなく、『怪計士』だ」と言ったこともある。
   言い過ぎたと反省してるけどね。
   でも、会計士から改善指示をしてもらえば、その後の改善がやりやすいんだ。
   そうやって、少しずつでもルール違反を減らしていくしかない。
   それを、「会計士が見逃してくれた」なんて喜んでたらダメなんだ。各会社のコンプライアンス担当者には是非お願いしたいね。
   漢字の話に戻るけど、この「経営」や「経営管理」、「経理」、「総務」、「営業」等、漢字の意味から、
   その部署のあるべき姿が学べるんだよね。
   経営者や社員に漢字の勉強をしてほしいね。役に立つと思うよ。
   僕はいつも「漢字に学び、漢字を楽しもう」と言っているんだけど、「漢字『を』学ぶ」ということにとどまるのではなくて、
   「漢字『に』学ぶ」姿勢があるといいなあ、と思っている。

クマ:そうだね。部署名や役職名は、英語やひらがな、カタカナもあるけど、ほとんどは漢字だもんね。
   地名に由来があるのと同じように、部署名や役職名にも由来があるわけだ。
   その由来も目標を含めて、あるべき姿が名前の中に込められているよね。

ヨネ:うん。だから「経」「営」という漢字の書き方や成り立ちを覚えて終わるのではなくて、
   これらの漢字が含み持っている意味合いの中に、「ルールを遵守し、お客様の信頼を得て、お客様に満足してもらうことが肝要」
   ということを読み取って、そのことに学んでほしい。
   それでこそ、「経営」の語義として辞書にも記載されている「持続的に事を行うこと」ができるんだ。
   いやー、昔を思い出してつい力が入っちゃった。失礼しました。じゃ、次いこうか。


■余という字 農具で土を 除ける様(よというじ のうぐでつちを のけるさま)

クマ:「余」の字のイメージの話だね。どこが農具なんだい?

ヨネ:「余」の字から「ハ(左右に開き分けることを示す)」を除いた部分がスコップに似た農具だ。だから「ハ」を含めた「余」は、
   「土を平らに押しのばして広くするように、余裕を十分にとること」を示す。

クマ:そう言われてみるとスコップみたいに見えてきたよ。

ヨネ:「余」のグループの字には「平らに押しのばす」、「ゆったり」というイメージがある。
   「除」「叙」「斜」「途」「塗」「徐」「茶」「舎」「捨」等が属しているんだ。

クマ:「茶」「舎」「捨」も「余」と同じグループなの。チョット字形が違うようだけど。

ヨネ:字形が変わっちゃったんだ。一つ一つ説明するよ。
   まず「茶」について。「茶」は、昔は「荼」と書いたが、唐代の8世紀以後、「茶」になった。
  「荼」は、「艸(ソウ)」+「余」で、「ゆったりと体をくつろがせる効果のある植物」のこと。つまり茶を意味する。
   でも、字形がなぜ「茶」となったのかは学者の間でも不明だ。
   次に「舎」について。「舎」の旧字は、「舍」で、「余(の省略形)」+「口」。
   「余(ゆったりと広げのばす)」+「口(場所を示す符号)」で、「手足をゆったりと広げてくつろぐ場所、やど、住まい」
   を意味する。
   そして「捨」について。「捨」は、旧字体では「てへん」+「舍」だ。「手」+「余(ゆったりと広げのばす)」で、
   「握っている手を広げのばして、中の物を放る様、すてる」ということを意味する。

クマ:なるほど。今と違って手書きの時代だから、間違いも多かったんだろうね。その間違い字が、
   画数が少なくていいとか、形がいいとか、その他の何らかの理由で受け入れられて定着したんだね。

ヨネ:そういうのもおもしろいでしょ。人間がやることだから間違いもあるさ、と思えば、おもしろいもんだよ。
   雑談のネタにもなるしね。「茶」という字の成り立ちの話は僕も何回か使ったことがあるよ。
   聞いた人は「へぇー」と感心してくれたよ。

クマ:そうだね。しかし、こうやって共通のイメージのあるものを、まとめて覚えると覚えやすいし、忘れにくいし、
   おもしろいね。

ヨネ:楽しみながら覚えないと続かないもんね。
   「川柳で漢字を楽しもう」という僕らの話をみんなに聞いてもらうのは今回が最後になったけれど、
   これからも楽しみながら、じっくりと漢字を覚えようよ、クマさん。付き合いますよ。


【筆者より読者の皆様へ】

これまでに言ってきたことを実行して、漢字に学び、漢字を楽しみながら、漢字を覚えて下さい。具体的には、漢検対策の問題集で知らない字をピックアップし、漢字の成り立ちの本を併用して効率的に覚える。その際に、知らない漢字を一度に覚えようとしても無理だから、目的に応じて今回はここまで覚えよう、これとこれは次の段階で覚えようと段階を踏んで覚える。また、漢字ウォッチングや、知ってる字も成り立ちを調べてみる等で新しい発見を楽しみながら覚えて下さい。
漢字には、歴史、人間学、古来の叡智、観察眼、その他が織り込まれております。これらを楽しみ、味わい、覚えれば話題が豊富になりコミュニケーション能力が向上する。また仕事上も役に立ち、説得力が向上します。漢字は、すばらしい。私は学び続けます。読者の皆様も是非そうして下さい。
最後に、約半年間、私の拙い川柳と解説を読んでいただき、ありがとうございました。皆様の漢字力向上に少しでもお役に立てればと願っております。
それでは失礼致します。


筆者紹介

米村 元治(よねむら・もとはる)さん

・「熊本出身のクマモンではなくイナカモン」と、ご本人談。65歳。
・趣味は、漢字・スポーツ・将棋・麻雀等に関する雑学・裏話・エピソードの蒐集。
・「おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものは心なりけり」(高杉晋作・野村望東尼)の精神で、世の中をおもしろがることをモットーとする。語源、成り立ち、由来に諸説がある場合は、「モットーに沿っておもしろいものを採用する」とのこと。
・多くの人に接し、また朝礼など人前で話すことも多かった会社員時代に、話の題材を求めて書店で漢字の成り立ちの本を手にしたところ、それがきっかけで漢字にのめり込むこととなった。
・以後、「楽しい上に職務上も役に立つ」ということで漢字が好きになり、漢字教育士の資格を取得。
・漢字教育士として、川崎市中原区の市民講座で3回、イトーヨーカ堂のヨークカルチャーで6回の漢字講座開催実績あり。


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