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【新井由有子さん】挿絵能書(1)

「漢字教育コラム」開設に当たり、ページトップの画像を作成させて頂きました。解説がてら、漢字の原型となった中国古代文字の歴史と、その魅惑の造形についてご紹介できればと思います。ご存じの方にはお馴染みの内容ですが、お付き合いのほどを。


字体の変遷を一望

「漢字教育コラム」のタイトルページをご覧いただくと、中央に縦書きで5種類の文字が並んでいます。左から順に、甲骨文・金文・古文・篆書・楷書で書いた「漢字教育」、現在一般的に使われている楷書体に至るまでの、書体の変遷です。(楷書が一番たどたどしいのはご愛嬌。)欠けている部分(シミ)は、該当する文字が見当たらなかったところです。未だ生まれていなかったか、或いはあったけれども伝わらなかったか。




甲骨文字は、実在が確認されている中国最古の王朝・殷で生まれました。殷は儀礼や祭祀を重んじた神政国家で、神意を問う卜占のための獣骨や亀甲に刻まれた文字であることから、この名があります。現在見つかっている最古の甲骨文字はB.C.1350年頃のもので、既に単純な象形だけではなく、指示・会意など概念的なものを示す字があったそうです。

金文は、青銅器の銘文の文字であることからこう呼ばれます。文字の形や構成は甲骨文字とほぼ同じ、ですが鋳造であるために柔らかく自由な線となっています。青銅器の銘文は殷の時代のものからも見つかっていますが、次の周王朝において発展し各地に広がりました。封建制を布いた周では、功績やそれに対する主君からの褒賞、契約や子孫に伝えるべき歴史などが青銅器に刻されました。


字形で見る国号・殷と周

さて。「殷」という国名ですが、この呼称はのちに周によってつけられた、蔑称に近いものであったといわれます。「殷」の金文体を見ると、左半分は「身」で妊娠した人の横向きの形、「殳」は手に持った器具で打つことを表します。つまり……




←こういうこと?

ダメでしょう、これ。
「魂振り」や「軍行のための呪儀」と考えられるそうですが、いくら祭祀大好きでも、天下を統べる王朝が大々的に名乗る名とは思えません。




殷王朝が自ら称した名は「商」。

今でこそ「あきない」の意味が独走している文字ですが、台座の上に把手のある大きな針(入墨に用いた)を立て、その前に祭器である口(サイ)を供えた字形 で、「神意をはかる」が元の意味であったそうです。神政的な支配者が、自らの刑罰権を誇示する国号であったということです。



一方、周はというと、字形は独自の文様のある方形の盾の形、これに祭器を示す口が加わります。
自らの武威を誇示する国号です。


如何でしょう? こうしてみると、「商」と不思議なほど対応している……「めっちゃ意識してるんちゃう?」という気がしませんか?




周の金文、そしてその後

やがて周が衰え、西方から侵入してきた異民族(西戎)に追われて東方に移り、春秋・戦国の世になると、金文に各地の地方色が加わるようになります。いわゆる「戦国の七雄」の時代、西方の秦で用いられた文字は「大篆」と呼ばれ、東方の諸国では「古文」と呼ばれる字体が使われます。

コラムトップページ画像の5行の「漢字教育」を見て、真ん中だけなんか変じゃない?と思われたアナタはご明察。“直系”の字体ではないのです。この時代、上記のほかにも個性的・装飾的な文字が色々伝わっています。

その後中国は秦によって統一され、その政策の下、バラバラだった字体も篆書(小篆)に統一されます。



ちなみに「秦」の字形は、杵を両手で持って禾(いね)を打つ、打穀の形を表しているそうです。秦の封ぜられた場所が、稲作に適した地であったためとも言われます。つまりは地名。

他の戦国七雄諸国の国名も、概ね農耕儀礼やら動植物やらに関する文字で、商・周の「一字入魂」感からはほど遠い感触です。地方の諸侯であったからなのか、もはや文字に呪を籠める時代ではなかったということなのか。

漢の時代に入ると、篆書より簡便で実用的な隷書が生み出されます。その発展を経て、後漢時代には、現代まで続く草書・楷書・行書が成立します。


ふう、漸く年表を一通り。これだけのことがほぼ、紀元までに起こっているのです……!
くどいようですが、次回もう一度、トップ画像に関連してお話しさせて頂きたいと思います。

※本文中の文字解釈は白川文字学に拠っています。



〔参考文献〕

白川静『字統』(平凡社)
立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所・編『入門講座 白川静の世界』(全3巻、平凡社)
世界の文字研究会・編『世界の文字の図典』(吉川弘文館)
阿辻哲次『図説 漢字の歴史』(大修館書店)


筆者紹介

新井 由有子(あらい・ゆうこ)さん

漢字教育士講座1期生。
2012年、受講中の漢字教育士講座レジュメ上で、甲骨・金文の「見」(図左)と目が合い一目惚れ。すっかり中国古代文字に魅入られて、字書游泳が趣味となる。
この度コラムの場を頂けてしめしめ、滾(たぎ)る文字妄想を書き連ねる所存です。
東京都在住、デラシネのOL。徳島県出身。


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