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【米村元治さん】川柳で漢字を楽しもう(3)

漢字の雑学や成り立ちを楽しもう(その1)

ヨネ:やあ、クマさん、漢字がおもしろくなってきたかい?

クマ:ああ、ヨネさん、お蔭でおもしろくなってきたよ。新聞記事や電車の広告で読めない漢字があると
   すぐ調べるようになったし、テレビで見る漢字の問題もおもしろくなってきたよ。

ヨネ:それは嬉しい。迷惑じゃないよね?

クマ:いや、とんでもない。迷惑じゃないから今日も来たんだ。またおもしろい話を聞かせてくれよ。

ヨネ:乗せるのが上手いね。じゃー早速いくよ。吉田松陰と弟子の話だけど、川柳にしてみるよ。


■君と僕 松陰達が 広めたり (きみとぼく しょういんたちが ひろめたり)

クマ:いきなりで悪いんだけど、川柳って「五・七・五」だよね?

ヨネ:そうだよ。

クマ:じゃあ、「しょういんたちが」って、ひらがなで書いたら8字になるから、字余りになるんじゃないの?

ヨネ:実は僕もそう思って、ちょっと調べてみたんだ。そうしたら、「字余り・字足らず」とは言うけれど、
   それは書いた文字の数ではなくて、声に出す時の音の数をカウントするんだそうだ。
   また「しょういん」の「しょ」のような音を拗音(ようおん)といい、川柳の世界では2字で1音と
   カウントするそうだ。従って、「しょういんたちが」は、ひらがなで書けば8字だけど、7音と数えるんだ。
   だから字余りにはならない。

クマ:へぇー。ところで「拗音」って、何だい?

ヨネ:拗音というのは、簡単に言えば「キャ・キュ・キョ」のように、仮名で書くときには
   イ段の字に小文字のヤ・ユ・ヨを添えて書く音、と考えておけばいい。
   ただし、イ段の字とは言っても、ア行のイとワ行のヰは除くけどね。
   あと、もうちょっと細かく言えば、主に外来語に使われるイェ・ウィ・ファ・ティなども拗音に含まれるよ。
   そういう事情なんで、「松陰師弟が」としたいところだったけど、それだと8音になっちゃうから、
   音数の関係で「松陰達が」にした。松陰先生失礼をお許し下さい。
   まー、川柳のセンスは元々ないんでクマさんも勘弁してよ。

クマ:勘弁だなんて、そんなそんな。僕はその川柳を楽しみに来てるんだからさ。

ヨネ:ありがとう。じゃあ、漢字の話に戻ろう。
   「君」「僕」という言葉は、吉田松陰師弟が使い始め、広げたらしいよ。
   文字の成り立ちと意味を見てみようか。
   「君」は、「又」+「丨」+「口」という成り立ちだ。「又」は手の形、「丨」は指揮棒、「口」は口の形だね。
   だから「君」は、「指揮棒を持ち、号令をかけて人々をまとめる人」という意味になる。
   そこから転じて、「国を治める人、君主」を意味するようにもなった。
   「僕」は、「人」+「●(僕-?)」という成り立ちだ。「人」は言うまでもなく人の形、
   「●(僕-?)」は「荒削りで粗雑」という意味だ。だから「僕」は、「武骨で教養のない人」という意味になる。
   そこから転じて、「謙遜するときの一人称代名詞(男の自称)」という使い方もされるようになったんだね。
   成り立ちからすると、「君」という字は本来、目上の人や貴人を敬っていう言葉なんだ。

クマ:「君」という字は成り立ちがおもしろいし、分かりやすいね。それに、元々は高貴な人をさしているんだね。
   ところで、松陰師弟はどういうところで、どうして「君」とか「僕」という言葉を使うようになったんだい。

ヨネ:「君」は松下村塾の講義の中で使っていて、「僕」は弟子達との手紙の中で使っていたらしいよ。
   手紙の中には、「君」はないが「諸君」という文字はあるんだそうだ。
   弟子達はこれらを真似て使い始めたようだ。
   使い始めた理由は、身分に関係ない対等な呼び名を作りたかったからと思う。
   それで、「君」という言葉には少し、うーん……、大分かな、下へ降りてきていただいて、
   二人称の代名詞として使い始めた。このことは平等思想を浸透させるのに役立ち、
   明治維新という政治・社会改革を果たす一因になったのではないかと思うよ。

クマ:言葉の役割は大きいよね。そういう言葉を使っているとそういう気持ちになってくるもんね。
   ところで吉田松陰については、「本人は大したことはない、弟子が偉かっただけだ」なんていう人が
   いるけど、どう思う?

ヨネ:僕はそうは思わないね。吉田松陰は、黒船来航の際にアメリカに密航しようとして失敗。
   投獄され、その後は萩の生家に幽閉された。ここで、叔父から松下村塾を引き継ぎ、
   高杉晋作・久坂玄瑞・伊藤博文らを育てたんだ。また、幕府が勅許を得ないで
   日米修好通商条約を結んだことを知ると、倒幕論を唱え、老中・間部詮勝(まなべあきかつ)暗殺を
   画策したんだが、それによって投獄され、獄中で刑死した。こうして見てくると、
   松陰先生の直接行動は過激で世の中に受け入れられず、何一つ成就していない。
   本人もさぞ悔しかったと思うよ。しかし、先生は思想家・教育者であって、評価されるべきは
   如何にその思想を伝え、弟子を育てたかだと思う。そういう視点で見ると、
   高杉晋作・久坂玄瑞・伊藤博文ら維新の指導者を育てており、間接的に維新の大功労者だと思うね。

クマ:そうだよね。行動の結果ばかりを追い求めるのではなく、行動すること自体の大事さを身をもって示し、
   行動力のある弟子を育成したんだよね。口だけの人が多い中、あっぱれな思想家・教育者だな。

ヨネ:「あっぱれ」が出たところで次に行こうか。


■中韓の 名前相手に 合わせ呼ぶ (ちゅうかんの なまえあいてに あわせよぶ)

クマ:そういえば、TVなどを見ていると、中国の政治家は日本語読みで呼ばれていて、
   韓国の政治家は韓国語読みで呼ばれているね。

ヨネ:うん。中国の国家主席、シー・ジンピン(習近平)さんは「しゅうきんぺい」さんと日本語読みで
   呼ばれているけど、韓国の大統領、パク・クネ(朴槿惠)さんは「パク・クネ」さんとそのまま韓国語読みで
   呼ばれているよね。

クマ:なぜ対応が違うんだい。

ヨネ:中国では、日本のあべしんぞう(安倍晋三)さんを「アンベイ・ジンサン」さんと中国語読みで呼ぶ。
   一方で韓国では、「あべしんぞう」さんと日本語読みで呼ぶ。
   それを踏まえて、日本では相手国と同じ扱いをするためだよ。

クマ:でも、名前は固有名詞だから、「自国語の音でも読めるから」といって、自国語読みを押し通すのは
   おかしいよね。これに関しては韓国の対応が正しいと思うね。

ヨネ:付け加えると、ちょっと前までは韓国が日本人を日本語読みで呼んでくれていたにもかかわらず、
   日本は韓国人を日本語読みしてたんだ。韓国の元大統領である金大中さんを日本では、
   「きんだいちゅう」さんと呼んでいた。最近は「キム・デジュン」さんと呼ぶだろう。

クマ:そうだね。どうして変えたの?

ヨネ:福岡在住の韓国人の牧師さんが、1975年にNHKを相手に「氏名民族読み訴訟」を起こしたことが
   その理由だね。この牧師さんの訴えは、1988年に最高裁で敗れてしまったんだけど、
   「氏名の読み方に人格権がある」という最高裁の判断が示された。
   その間の1984年にチョン・ドゥファン(全斗煥)韓国大統領の来日があり、時の安倍晋太郎外務大臣が、
   この訴訟を踏まえて、外務省に対して名前を現地読みするように指示したんだ。
   これが事実上のスタートだ。

クマ:中国人は訴訟を起こさなかったの?

ヨネ:ないみたいだね。日中のマスコミは、今もお互いに自国語読みで呼び合っているから、
   訴訟も起こされなかったんだと思うよ。日本人も中国人も、自国では相手国の人名を日常的に
   自国語読みで呼んでいるから、そんなもんだと思っているんじゃないかな。
   でも僕は、固有名詞を自国語で読むのはおかしいと思う。
   それを一番感じるのは、日中韓の例ではないけど、カエサル(Caesar)を「シーザー」と呼ぶことだね。
   別人と思っている人も結構いるんじゃないかな。

クマ:そうかもしれないね。名前の呼び方に色んな経緯や裏話があっておもしろいね。

ヨネ:「おもしろい」の言葉をいただいたところで次にいこうか。


■相撲の字 昔のルール そのままだ (すもうのじ むかしのルール そのままだ)

クマ:どういう事? 教えてよ。

ヨネ:相撲は、「あいなぐる」って読めるでしょう。つまり、昔は撲(なぐ)ったり、蹴ったりしてもよかったんだよ。
   『日本書紀』によると、垂仁(すいにん)天皇7年(紀元前23年)に垂仁天皇の命令で
   野見宿禰(のみのすくね)と當麻蹶速(たいまのけはや)という2人の勇士が闘った。
   蹴り技の応酬で最後は宿禰が蹶速の腰骨を踏み折って絶命させたというんだ。
   当時の相撲は打撲や蹴りを主とする格闘技だったんだよ。

クマ:エー、絶命させたの。まるで武蔵と小次郎の御前試合みたいだね。命までかかってるんだ。

ヨネ:そうなんだよ。今のルールとは全然違うんだよ。神亀(じんき)3年(726年)に、
   「突く・殴る(撲る)・蹴る」の三手の禁じ手や、四十八手の決まり手、作法礼法等が制定されて、
   現在のようなルールになったんだよ。しかし「相撲」という字はそのまま。
   それを詠んだのがさっきの川柳だよ。

クマ:なるほどね。昔の名前とか字がそのままっていうのは結構あるよね。
   駅の名前とか、用具や器具の名前とかね。「相撲」の字もそうだとは気付かなかったよ。
   ところで野見宿禰と當麻蹶速ってどういう人なんだい。

ヨネ:當麻蹶速から説明するね。大和国當麻(現在の奈良県葛城市當麻)に住み、剛力を誇る人だった。
   命をかけた勝負をする相手を欲しており、垂仁天皇はこれを聞き、
   出雲で勇士と評判の野見宿禰を召し寄せ、闘わせた。結果はさっき言った通りで、野見宿禰が勝った。

クマ:當麻蹶速は自分で闘いを望んで殺されちゃったんだね。かわいそうに。

ヨネ:自信があったんだろうけど、しょうがないね。ところで野見宿禰のことだけど剛力無双で出雲の人。
   闘いの後、蹴速の所有地だった當麻を天皇から賜り、垂仁天皇に仕えた。

クマ:エー、當麻蹶速は所有地まで没収されたんだ。泣きっ面に蜂だね。野見宿禰はその後どうなったの?

ヨネ:垂仁天皇に仕えたんだけど、垂仁天皇の皇后が崩御された際に、
   当時は広く行われていたという殉死の風習を埴輪にかえることを献言した。
   認められて土師臣(はじのおみ)の姓を賜り、その子孫である土師氏は代々皇室葬儀を司るようになった。
   また土師氏の中には菅原氏に姓を改めた人たちもいる。菅原道真もその子孫らしいよ。
   それから、菅原氏の血筋である公家の五条家は、相撲司(すもうのつかさ)を代々務めて、
   宮中での相撲節会(すまいのせちえ)という相撲の儀礼を取り仕切った。

クマ:相撲の字から話が広がったね。おもしろいね。でも、「『相撲』って、なぜこう書くんだ」という発想には、
   僕はまだなれないよ。

ヨネ:漢字が好きになれば、自分の興味のあるものについて、
   「なんでこういう字を書くんだろう?」と自然に思うようになるよ。
   僕は相撲が大好きで、それ以上に漢字が好きなだけさ。
   こういうのを「漢字ウォッチング」というみたいだ。ある先生が書いてたよ。
   「漢字ウォッチング」は楽しいよ。クマさんも「漢字ウォッチング」をしようよ。協力するよ。
   それじゃあ。また漢字の話を聞いてよ。


筆者紹介

米村 元治(よねむら・もとはる)さん

・「熊本出身のクマモンではなくイナカモン」と、ご本人談。65歳。
・趣味は、漢字・スポーツ・将棋・麻雀等に関する雑学・裏話・エピソードの蒐集。
・「おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものは心なりけり」(高杉晋作・野村望東尼)の精神で、世の中をおもしろがることをモットーとする。語源、成り立ち、由来に諸説がある場合は、「モットーに沿っておもしろいものを採用する」とのこと。
・多くの人に接し、また朝礼など人前で話すことも多かった会社員時代に、話の題材を求めて書店で漢字の成り立ちの本を手にしたところ、それがきっかけで漢字にのめり込むこととなった。
・以後、「楽しい上に職務上も役に立つ」ということで漢字が好きになり、漢字教育士の資格を取得。
・漢字教育士として、川崎市中原区の市民講座で3回、イトーヨーカ堂のヨークカルチャーで6回の漢字講座開催実績あり。


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