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【米村元治さん】川柳で漢字を楽しもう(4)

漢字の雑学や成り立ちを楽しもう(その2)

ヨネ:やあ、クマさん、漢字の勉強は進んでる?

クマ
:うん。やってるよ。漢検対策の問題集で勉強してるんだけど、何かいい方法ある?

ヨネ
:それでいいと思うけど、知らない漢字を一つ一つ覚えていくのは辛いし、続かないよ。
   漢字の成り立ちの本と併用するといいね。

クマ
:どういうふうに?

ヨネ:まずは漢検対策の問題集で知らない字をピックアップする。次に、漢字の成り立ちを
   解説した本で、その字を調べる。漢字の成り立ちを解説した本はいろいろあるけど、
   同じ成り立ちの漢字をグループにして説明しているものがいいね。
   例えば、『漢字の成立ち辞典』(加納喜光・著、東京堂出版)という本は、僕もよく使っている。
   そういう本を見て、同じ成り立ちの字はまとめて覚えるようにすることだね。
   成り立ちが記憶のフック(鉤)になり、覚えやすいし、忘れにくい。丸暗記はダメだよ。
   覚えにくいし、忘れやすい。

クマ
:覚える漢字が増えそうだね。

ヨネ
:確かに増えるね。増えるけど成り立ちというフックがあるから、それほど苦にならないと思う。
   むしろ、「この字とこの字には、こういう共通のイメージがあるんだ」と覚えやすくなると思うよ。
   それに漢字を学ぶ目的に応じて今回はここまで覚えよう、これとこれは次の段階で覚えよう
   とか自分で決めて覚えればいいんだよ。

クマ
:えっ、どういう事。具体的に教えてよ。

ヨネ
:例えば漢検の2級を受けようと思ってる人は、同じ成り立ちの2級の漢字まで覚え、準1級、
   1級の漢字は次の段階で覚えるようにすればいいし、クマさんみたいに特に急ぐわけじゃ
   ない人は、同じ成り立ちの字を同時に覚えていった方がいいね。
   じっくり、楽しみながら覚えていけばいいんだよ。
   あと、漢字ウォッチングも重要だね。
   それから、すでに知ってる字でも、改めて成り立ちを調べると面白い発見があるよ。

クマ
:分かった。そうするよ。ありがとう。

ヨネ
:じゃあ、下手な川柳にいくよ。


■弘法が 誤った字は 應である(こうぼうが あやまったじは おうである)


クマ
:へー。弘法にも筆の誤りという諺は知ってたけど、何という字を誤ったのかは知らなかった。
   考えたこともなかったな。

ヨネ
:そうでしょう。雑談のネタとしてもおもしろいんじゃないかな。

クマ
:うん。弘法さんは学校を創ったよね。そこで使う教科書か何かで間違ったの?

ヨネ
:いや、平安京の朝堂院(重要な政務・儀式を行う所)の正門である「應天門」の
   額を書いた時に間違ったらしい。
   「應」の字の1画目の点を書き忘れて「まだれ」を「がんだれ」にしてしまったんだ。
   「應」の字の「心」の点を書き忘れたという説もある。
   いずれにしても「應」の字を間違ったらしい。

クマ
:弘法さんは大天才で能書家だよね。そういう人が「應」なんて大して難しくない字を
   間違えちゃったんだ。
   忙しくて、「心」ここに在らずの状態だったのかな。

ヨネ
:「應」は、漢検でいえば6級の漢字だもんね。もっとも現在の字体の「応」のことだけどね。
   でも、そんな間違いをするのも人間らしくていいんじゃない。
   ノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹さんによると、弘法さんは日本の歴史上最も万能的な 
   天才らしいんだ。
   そういう人がうっかりすることもあるってことだよね。

クマ
:えー。湯川さんが日本の歴史上最も万能的な天才だと評価してるんだ。
   弘法さんはどんな事をやられたんだっけ。
   知ってたら教えてよ。

ヨネ
:知ってる範囲で弘法さんの業績、功績、関連事項を挙げてみるね。
   まず、真言密教の開祖であり、『三教指帰(さんごうしいき)』をはじめとして多数の仏教書を
   著している。
   それから、日本で初めての私学「綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)」を設立した。
   書家としては、平安初期の三筆の一人に挙げられているし、唐でも五筆和尚と
   呼ばれているね。
   あとは、現存最古の日本製の字書『篆隷万象名義(てんれいばんしょうめいぎ)』を
   書いたほか、四国八十八ヶ所霊場の原型を作ったとされている。
   弘法さんの伝説が残る湧き水も全国各地にあって、「弘法水」と呼ばれているけど、
   香川県の満濃池の改修などの土木工事を行ったことと結び付けているのかもしれないね。
   まずはざっと、それくらいかな。このほかにもたくさんあると思うけど、確かに多方面で
   すごい業績を残されてるよね。

クマ
:うわー、本当に多彩な才能だね。

ヨネ
:話は変わるけど、弘法さんの俗名(幼名)は佐伯 眞魚(さえき の まお)というんだってね。
   「まおちゃん」だよ。さっきの、うっかりミスとあわせて親しみがわくね。
   僕は、こういう偉人のほほえましい話が大好きだよ。
   白川静先生のイナバウアーの話みたいなね。

クマ
:そうだね。パーフェクトな人より親しみが持てるよね。だけど、白川先生の話は知らないな。
   教えてよ。

ヨネ
:謹厳で重厚なイメージの白川先生が、荒川静香さんが好きで、生前にイナバウアーの
   真似をされていたという話さ。
   僕はどこかでそういう話を見て、白川先生の義理の息子さんに当たる津崎幸博先生に
   確認したんで、これは間違いないよ。
   漢字に関心を持って、あれこれ見てると、こういうおもしろい話を発見したりして楽しくなるよ。

クマ
:弘法さんが何という字を間違ったかという疑問から始まって、白川先生の話まで随分話が
   広がったね。おもしろいね。

ヨネ
:でしょう。じゃ、次行こうか。

 


■古今字は 原義が同じ ペア漢字(ここんじは げんぎがおなじ ペアかんじ)

■然と燃 原義もやすの 古今字だ(ねんとねん げんぎもやすの ここんじだ)

■然の字の 原義は燃に 移りたり(ねんのじの げんぎはねんに うつりたり)


クマ:「古今字」っていう言葉は初めて聞いたけど、どういう字のこと?

ヨネ
:「古今字」という字があるわけではないよ。
   例えば、さっき言った「然」と「燃」みたいに、原義(もともとの字義)が同じペア漢字のことを
   いうんだ。
   それと、補足になるけど、古今字は基本的に同音なんだ。ある漢字が原義以外の意味に
   転用され、そちらで使われることが主になったときに、その字の原義をあらわすために、
   別に新しい漢字が作られることがある。
   こういう関係にある一対の漢字を「古今字」といい、もとの字を「古字」、あとで作られた字を
   「今字」というんだ。

クマ
:へー。おもしろそう。「然」と「燃」の例でもっと詳しく説明してよ。

ヨネ
:興味を持ってくれたね。まず「然」の成り立ちから説明するよ。
   「然」は「肉+犬+列火(火)」という構成で、「犬の肉をもやす」さまを示してるんだ。
   原義は「もやす」だけど、犬の肉は柔らかいから、「しかり(その通り)」・「しかるに(そうでは
   あるが)」と、物柔らかに受けて言う言葉も意味するようになった。
   その後、「然」は次第にこちらの意味が主になってきた。
   そのため原義の「もやす」を意味する漢字が必要になってきた。

クマ
:へー。それで新しい漢字、「燃」を作ったわけか。

ヨネ
:そう。「然」に火へんを付けて「燃」という字を作り、「然」の原義をあらわすようになった。
   「火」と「列火(火)」で火がダブってるよね。古今字にはこういう例が多いんだ。
   例えば「莫」と「暮」に含まれる「日」のようにね。
   僕はおもしろがりの性格だから、こういうのは工夫のあとが見えて、
   すごくおもしろいと感じるんだけど、クマさんはどう? 
   ダブってるからダメな字だと思う?

クマ
:いやいや、おもしろいよ。それで、古今字は一杯あるの?

ヨネ
:結構あるよ。漢字ウォッチングの対象にして自分で調べてみて。
   次回以降も取り上げていくんで今日はここまでにしようか。じゃ次いくよ。


■益の字は 水満杯の 皿の様 (えきのじは みずまんぱいの さらのさま)


クマ:「益」の成り立ちの話だね。上部は水を横にした形か。なるほど。

ヨネ
:この字は、僕が漢字に興味を持ち、仕事にも使えるなと思った思い入れの強い字なんだ。
   「コンプライアンス」という言葉を知ってると思うけど、コンプライアンスと利益の関係を
   説明するのに、この「益」という字が役に立ったね。

クマ
:ヘエー、どういう風に使ったんだい。簡単に説明してよ。

ヨネ
:うん。じゃー簡単に。「コンプライアンス」は法令遵守と訳されることが多いけど、
   企業は法令を遵守するだけでは不十分なんだ。
   法令というのは後追い作業だから、現時点の法令を遵守しても、それは法の不備を
   くぐり抜けただけかもしれない。
   そういう「今の法令さえ遵守すればよい」という消極的な取り組みではなく、「その時点で
   法令になくても社会規範や企業倫理に反するような行為はしない」ということ、つまり、
   コンプライアンスを「社会規範、企業倫理及び法令の遵守」と解釈し、積極的に取り組むべき
   なんだよ。

クマ
:なるほど、今ある法令を遵守するだけではダメなんだね。
   それは分かったけど「益」の字はどう役に立ったの?

ヨネ
:「益」、つまり利益が出ていても、コンプライアンスの解釈、取り組み方によって「益」の水は
   ヘドロのような汚い水になったり、グレーな水になったり、クリーンな水になったりする。
   ヘドロのような汚い水やグレーな水を出し続けていても、表面的には「益」が出ている状態
   だったら、会社のトップは必ずしもその内容まで知っていると限らないため、社内の改善対策
   が遅れがちとなる。でも、銀行や取引先は次第にその内容に気付き、信用を失う。
   その結果、「益」から「損」へ、さらに会社が消滅することにもつながる、と説明した。
   このようにコンプライアンスの重要さと、それを怠った結果を説明するのに「益」の字の
   成り立ちは非常に役立った。
   実際には、例を挙げてこれはヘドロ、これはグレーと詳しく説明したが、省略するよ。

クマ
:なるほど、「益」の字の水で説明するのは、堅苦しい専門用語で説明するより、
   受け入れやすいんじゃないかな。

ヨネ
:うん。「益」の例に限らず、「漢字の成り立ち」を利用することは、聴く気にさせるのに
   役に立つと思うよ。
   会議、朝礼、営業トーク、雑談と活用範囲は広くて役に立つ。
   分かってもらって、うれしいよ。
   それじゃあ、また漢字の話を聞いてよ。



筆者紹介

米村 元治(よねむら・もとはる)さん

・「熊本出身のクマモンではなくイナカモン」と、ご本人談。65歳。
・趣味は、漢字・スポーツ・将棋・麻雀等に関する雑学・裏話・エピソードの蒐集。
・「おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものは心なりけり」(高杉晋作・野村望東尼)の精神で、世の中をおもしろがることをモットーとする。語源、成り立ち、由来に諸説がある場合は、「モットーに沿っておもしろいものを採用する」とのこと。
・多くの人に接し、また朝礼など人前で話すことも多かった会社員時代に、話の題材を求めて書店で漢字の成り立ちの本を手にしたところ、それがきっかけで漢字にのめり込むこととなった。
・以後、「楽しい上に職務上も役に立つ」ということで漢字が好きになり、漢字教育士の資格を取得。
・漢字教育士として、川崎市中原区の市民講座で3回、イトーヨーカ堂のヨークカルチャーで6回の漢字講座開催実績あり。


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