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【新井由有子さん】羊漫遊(1)

年の瀬に寄せて

早いもので、もうひとつ寝るとお正月、2015年が鼻先まで迫っております。
さようなら馬、お久しぶりね羊。
12頭のアニマルが順繰りに回ってくるこの干支なるもの、さも当然のような顔をして世の中に納まっております。なんだかよくわからないけど昔からそう決まってるらしいから……。


その「昔」をたどると本当にとても古くて、殷商時代の獣骨には既に「子・丑・寅・卯……」に当たる甲骨文字が刻まれておりました。ただしこれは日付を数えるための暦のようなもので、未だ動物たちとも壮大な陰陽五行とも無関係だったようですが。
さておき。今回は十二支の起源ではなくて、新年の干支である羊の話をいたしましょう。


羊に纏わるエトセトラ

現在世界一の牧羊国家がどこか、ご存じでしょうか? 世界で一番たくさん羊を飼っている国、です。
答えは中国。記憶では、No.1牧羊国はオーストラリアと習った気がするのですが……(←X年前)、1996年に中国と逆転して、今では1位:中国、2位:インド、3位:オーストラリアなのだそうですよ!
羊と人の付き合いの歴史は古く、紀元前8000年頃のメソポタミアでは既に羊が家畜化されていたと言われています(年代には諸説あり)。
中国でも紀元前2500~2000年頃には羊の飼育が始まっていたと見られ、紀元前16世紀頃に成立したといわれる殷(商)の時代には、羊をかたどった見事な青銅器が作られています。


「羊」という字は、羊の頭部を正面から見た形です。現在中国で飼育されている羊の原種とされるのが「アルガリ」という野生羊です。その頭部はこんな感じ。
その他世界に数種残る野生の羊の雄は、このような立派な巻角を持っています。(家畜化された羊の角は総じて小さくなり、数多い家畜品種の中には角を持たないものもあります。)


動物を表す多くの象形文字の中でも、頭部だけが字形の元になっている字はわずかです。他には「牛」くらい。
漢字の造字における特徴として、徹底した単純化・抽象化ということが挙げられます。漢字が数千年にわたる長い命脈を保ち得たのも、実にこの特徴あればこそ。シンプルイズベスト。この角のインパクトさえあれば羊という生き物を表現するのに十分、ということだったのでしょう。


うつくしうまし羊

「美」「善」「祥」「達」「義」……それぞれの字の中に羊がいますね。
「羊」を要素として持つこれらの文字群を見渡しても、古代社会において羊がいかに重要な獣であったかがしのばれます。


例えば、みなさんよくご存じの「美」という字は、成熟した羊の姿から生まれました。白川文字学によると、犠牲として完全な羊の全身図で「大」の部分は牝(めす)の腰骨とも。







一方、あまりなじみはありませんが、生まれた子羊がようやく立ち上がった姿を表す「羔」(コウ)という字があります。



「羔」と「美」とを合わせると「羹」という字ができます。本来は[コウ]と読むのが正しいのですが、日本では習慣的に[カン]と読まれますね。
ハイ、「羊羹」のカンです。

つまり「羊羹」とはこんな形→
……ナニコレ。



「羊羹」とは、元は字のごとく羊肉をドッサリ煮込んだスープであったそうです。「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」の「あつもの」です。
ちなみに「羹」の正字は右の図のとおりです。篆書体の字形を見ると、周りを覆ったような形のものがありますね。
このもくもくは、なんと湯気! 完全に煮込んでいます。


そんな料理が室町時代、禅僧たちによって日本へと伝えられた際に、仏教で禁じられた肉に代わって豆が用いられたのだとか。それは冷めれば煮凝りのできる肉料理のように、豆を煮て固める食べ物へ、やがては高級菓子へも変貌していったのだということです。
「羊羹」の名はそのままに……。

あぁっ!大切な羊をいきなり煮てしまいました。
次回こそは古代中国で羊が果たした大きな役割について、聖なる神の羊「解?(かいたい/かいち)」のお話をしたいと思います。


〔参考文献〕

白川静『字統』『字通』(平凡社)
大内輝雄『羊蹄記』(平凡社)
菅豊「創られたヒツジ??中国・江南農耕地帯の在来ヒツジの品種改良にみる家畜観」(寺嶋秀明・篠原徹(編)『エスノ・サイエンス』、京都大学学術出版会)
フリー百科事典 Wikipedia

(Z会編集者より)
今回の新井さんのコラムでは、一部、2014/12/17付の矢作さんのコラムと重複した内容が含まれております。編集担当者の調整不足によるものです。
読者の皆様、ならびにご執筆いただいた矢作詩子さん、新井由有子さんには、ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。誠に申し訳ありません。(編集担当・大橋)


筆者紹介

新井 由有子(あらい・ゆうこ)さん

漢字教育士講座1期生。
2012年、受講中の漢字教育士講座レジュメ上で、甲骨・金文の「見」(図左)と目が合い一目惚れ。すっかり中国古代文字に魅入られて、字書游泳が趣味となる。
この度コラムの場を頂けてしめしめ、滾(たぎ)る文字妄想を書き連ねる所存です。
東京都在住、デラシネのOL。徳島県出身。


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