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【矢作詩子さん】「詩子先生の漢字教室」(6)

お菓子と漢字のつながり(承前)

前回は「葛餅と久寿餅」について東西の違いを書きました。
個人的な話になりますが、東京出身の夫と結婚して40年近く経ち、ほぼ4割の期間を東京で、あとは関西や外国でも過ごしました。私は母方の祖母が京都出身で、生まれも育ちも関西です。結婚して初めて東京に住みましたが、その後ほぼ3年に1度の割で転居し、西と東を行ったり来たり……。そのような訳で、味覚を含めた東西の文化の違いは常に身近にある永遠のテーマです。今回も東西の“甘い対決”とそれに関わる漢字の話題です。


おいしい常用漢字

「東西対決」に入る前に、少し常用漢字のお話をしましょう。
私のコラムの第1回・第2回で、情報化に伴い2010年に常用漢字が新しく196字追加されたということを書きました。中学・高校で学習する漢字が大幅に増えたわけですが、追加漢字の中には、お菓子などの食ベ物や食べることに関する字も多くあります。

  おの上の拉麺飯をで食べ、カツを張りながら焼を飲み、
  蜂蜜をかけたを食べ、葛餅瓦煎餅も食べました。ましいでしょう~。

こんなおいしそうな迷文?も漢字交じりで書けるようになりました。(太字は追加常用漢字)
漢字を書く時の注意点です。

・「」の下に部分の「者」は点がある形、無い形のどちらでも構いません。
・「」の下の部分は「虫」です。「蜜」は蜂が集めてきたhoney(はちみつ)です。
・「」の左の部分の「しょくへん」は、図1どちらの形でも構いません。
・「」の下の部分は、「にすい」の「次」ではなく、もう一つ点の多い「さんずい」のもので(図2を参照)、「よだれ」を表す漢字です。“おいしそうな「羊」を見て、よだれを流してうらやむ”と覚えたらもう書けますね☆


(図1)二つの「しょくへん」の書き方

(図2)「さんずい」にすると「よだれ」

西と東の「煎餅」

関西人の私は、「煎餅」といえば神戸の瓦煎餅、有馬温泉の炭酸煎餅、京都伏見稲荷の狐の煎餅など次々と好物の名前が出てきます。関西で「煎餅」といえば、小麦粉を原料として砂糖・卵で甘い味をつけて焼いたものを連想します。元来、江戸時代の煎餅は糖蜜を加えた小麦粉生地が主流だったそうです。
一方、東京で「煎餅」といえば草加煎餅のように醤油味の米煎餅を連想します。明治時代以降、醤油の産地の千葉県の野田や、米の産地の埼玉県草加で盛んに作られるようになり、香ばしい醤油味や歯ごたえが好まれて東京では定番になったそうです。
ちなみに関西では、醤油味の米煎餅を「おかき」と呼びますが、欠き餅(かきもち。掻き餅とも書きます)が短くなった言い方です。東西問わず小粒なものは「あられ」と呼んだりします。


西の黒蜜、東の酢醤油

東西の食べ方の違いがよく話題になるのは心太(ところてん)です。東京の人は心太に酢(!)をかけて食べると知った時のびっくりしたこと!! 東京では酢醤油が定番で、辛子や青海苔などを加えて食べます。関西ではおやつという感覚で、黒蜜をかけて食べることが多いようです。
江戸時代後期にはすでに東西の違いはあり、京都・大坂では砂糖、江戸では醤油をかけたという記述もあるそうです(『守貞謾稿』1853年)。西の甘味・東の辛味という味覚の違いはもう江戸時代にあったのですね~。


「心太」をなぜ「ところてん」と読む?

では、なぜ「心太」が「ところてん」なのでしょうか? 心太の原料はテングサなどの海藻です。海藻を洗浄したのち煮とかして、型に流して冷やし固め、天突き器で押し出せば心太の出来上がりです。テングサはその性質から凝藻葉(こるもは)と呼ばれ、これが転じて「こころぶと」になりました。ところてんに「心太」の字をあてるのは「こころぶと」からきているというわけです。すでに奈良時代の正倉院文書に「心太」の名が見え、平安時代には、都の東西の市で「心太」を売る店もあり、身近な食べ物だったようです。

この「こころぶと」が室町時代に「こころてい」になり、更に転じていつしか「こころてん」になり、江戸時代には「ところてん」に変化したとされています。
「てん」は「心太」の「太」字を「天」字に誤ったものか? という柳田國男の興味深い説(「食料名彙」)もあります。いずれにしても、「こころぶと」から時代を経て「ところてん」へ音が変化したことにより、プルプルとした食感がうまく表れたような気もします。


「寒天」は日本の発明

心太に似たものに「寒天」がありますが、「寒天」はところてんから水分を抜いて乾燥させたものです。ところてんは中国から伝わったといわれていますが、保存食になる寒天は江戸時代に日本で発明されました。厳寒期に余り物の心太を戸外にだしておいたところ、夜中に凍り、日中に陽を浴びて溶けることにより海藻独特のアクが流れ出して、自然乾燥の状態になりました。これを更に改良して「寒天」は生まれました。羊羹やあんみつの材料になったり、細菌培養など医学の研究に必要なものとなっています。

夏になるとおなじみの心太ですが、このような長い歴史があるとは……。
酸いも甘いも噛み分けながら(?)、ゆっくりと味わいたいものです。
ところで私も、参考文献を読んでいるうちに、「『心太(しんた)』は人名にも見られる」と、知りました。
次回もお菓子の話が続きます。


〔参考文献〕
 円満字二郎『部首ときあかし辞典』(研究社)
 白川静『字統』(平凡社)
 笹原宏之『当て字・当て読み 漢字表現辞典』(三省堂)
 虎屋文庫 第77回甘い対決「和菓子の東西」展(2014年11月1日~30日)資料
 『日本国語大辞典』(小学館)


筆者紹介

矢作 詩子(やはぎ・うたこ)さん

1972年、同志社大学法学部卒業。大学在学中に大阪万博で通訳の経験をしたことがきっかけとなり、英語・日本語講師になる。1993年ジャカルタの法律事務所で日本語指導。帰国後、漢検準1級取得。2003年より学習院生涯学習センターで「おとなのための漢字学習」を11年間担当。武蔵野市、日の出町など自治体の漢字教養講座も担当。漢字教育士資格講座を受講して、白川文字学を学び、2013年「漢字教育士」・「漢字教育サポーター」資格取得。兵庫県芦屋市在住。


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