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【米村元治さん】川柳で漢字を楽しもう(6)

漢字の雑学や成り立ちを楽しもう(その4)

ヨネ:やあ、クマさん、漢字ウォッチングや成り立ちを楽しんでる?

クマ:うん。楽しんでる。それでふと気づいたんだけど、ヨネさんの故郷、熊本出身の徳富蘇峰と徳冨蘆花は、
   兄弟なのに「とみ」の字が違うんだね。

ヨネ:そうだよ。よく気付いたね。漢字ウォッチングを続けているだけに、漢字に対する観察眼が鋭くなってきてるね。

クマ:ほめられちゃった。嬉しいな。

ヨネ:そのことは次回に川柳にさせてもらうよ。今日は達磨さん(達磨大師)、〒記号(郵便記号)、羊を題材にした
   川柳を用意したんだ。

クマ:おもしろそう。聞かせてよ。

ヨネ:まず、達磨さんからいくよ。


■皮肉とは 達磨大師の 言葉から(ひにくとは だるまだいしの ことばから)

ヨネ:達磨大師が弟子達の修行の成果を見るために仏教の本質、禅の要旨を問われ、それに対する弟子達の答えを評価された。
   その時に、「我が皮を得たり」「我が肉を得たり」「我が骨を得たり」「我が髄を得たり」と表現された。
   「皮」が一番評価が低く、「肉」、「骨」、「髄」の順に高くなる。「髄」が最も高い評価なんだ。

クマ:おもしろいね。体の表面にあるか、深くにあるかで、理解が浅いか深いかを表現されたんだね。

ヨネ:正解。「皮」や「肉」は体の比較的浅いところにあるから、「理解が浅く、本質や要旨をよく理解していない」、
   「骨」や「髄」は深いところにあるから「理解が深く、本質や要旨をよく理解している」ということなんだ。
   クマさんの答えは「我が骨を得たり」だね。

クマ:せっかくだから「我が髄を得たり」と評価してもらいたかったな(笑)。
   ところで人体を使った熟語はほかにもあるのかな。「肝腎」なんかもそうかな?

ヨネ:そうだよ。「肝心」とも書くよね。「肝腎」は「肝臓」と「腎臓」の略、「肝心」は「肝臓」と「心臓」の略だよ。
   肝臓は大きくて目立つ臓器だからなのか、「大事」という意味でよく使われるね。「肝要」も「肝臓」と「要」だよ。
   「要」は「腰」の原字、つまりもともとの字だ。

クマ:へー。「要」は「腰(こし)」のことなんだ。

ヨネ:例えば「要領」は「腰」と「領(すっきりとした首筋)」、「要項」は「腰」と「項(頭と背の間をまっすぐ貫いた首)」だ。
   言葉の意味の説明は省略するけど、調べてください。

クマ:なるほど。たくさんあるね。あ、そうか。「要」と「腰」は、原義が「こし」の古今字なんだね。

ヨネ:その通り。前回、前々回の話とばっちり繋がったでしょう。達磨大師のエピソードに話を戻すよ。
   たとえ尊敬する偉大な師匠の言葉だとしても、自分の理解度を皮や肉にたとえられて、しかもそれが低い評価だったら、
   クマさん、どんな気持ちがする?

クマ:うーん、遠まわしな表現でいやだね。分かりやすくズバリと「理解が浅い」と言われた方が、
   かえって気持ちがいいな。

ヨネ:誰だってそうだよね。
   それで、「皮肉」は「相手の欠点や弱点を遠まわしに非難すること」を意味する言葉として使用されるようになった。
   今では、ほかにも「物事が思い通りにいかず、予想や期待に反した結果になること」という意味もあるけど、
   これはさらに転用されて生まれた意味なんだろうね。あと、「皮肉」が「物事のうわべ」であるのに対して、
   「骨髄」の方は「最も重要なこと」を意味する言葉でもあるんだけど、こっちは「皮肉」に比べれば使用頻度は低いね。

クマ:そうか。僕は達磨さんに好感を持っていたんだけど、弟子に「皮肉」を言う嫌味な人だったのかな。

ヨネ:そうじゃないよ。達磨大師は「面壁九年」という言葉で知られるように、中国の嵩山・少林寺で9年間も壁に向かって
   厳しい座禅を組み続け、悟りを開いた御方なんだ。このことから、「面壁九年」は、長い間、辛抱強くひとつ事をやり抜くことの
   たとえとなった。そして、達磨大師が座禅をする姿をモチーフに開運の縁起物「ダルマさん(ダルマ人形)」が誕生した。
   これには、達磨大師が悟りを開いたように目標達成の願望が込められており、勝負事や商売繁盛の縁起物として大変人気がある。

クマ:へー。ダルマさんの丸っこい姿からは親しみを感じるけれど、そんなに厳しい方だったなんて、想像もつかないね。

ヨネ:達磨大師は厳しい人。それが言いたかったんだ。「皮肉」という言葉も、嫌味からではなく、厳しさから出た言葉だと思うよ。
   嫌味な人ではなくて、自分にも他人にも厳しかった人なんだよ。

クマ:分かった。そうじゃなきゃ、こんなに人気があるわけないよね。
   達磨大師に「我が骨を得たり」と評価されるように努力するよ。

ヨネ:僕もだ。次いこうか。


■〒記号は 逓信省の 逓からだ(〒きごうは ていしんしょうの ていからだ)

ヨネ:〒を一字として川柳にしました。ご勘弁を。

クマ:ご苦労様です。逓信省(ていしんしょう)って、日本郵政(JP)の前身である郵政省の、そのまた前身だよね。
   その逓信省の「逓」が由来なの?

ヨネ:そうなんだよ。
   逓信省の名前の由来は、駅逓局の「逓」と電信局の「信」をあわせたもの。
   駅逓局は、交通通信担当官司の駅逓司が駅逓寮、駅逓局と改称した官庁で、電信局は、電信に関する現業業務を掌る官署だ。
   次に「逓」の字の説明をするよ。「逓」は略字で、本字は「遞」と書く。この「遞」を説明しないと〒記号につながらないんで、
   「遞」の字を説明するね。「遞」から「しんにょう」を除いた部分は、「委虎(イコ)」という虎に似た空想上の動物で、
   這いつくばって、横に一歩ずつ歩くんだ。そこから、しんにょうを含む「遞」の字は次々に伝えていく宿駅の制度、
   すなわち駅逓を意味し、駅逓局の由来となり、さらに逓信省の由来となった。

クマ:なるほど、逓信省の名前の由来は分かった。それに「逓」は「遞」の略字なんだ。それで「逓」と〒記号の関係は?

ヨネ:逓信は、カタカナ表記すると「テイシン」でしょ。この「テ」をデザイン化したのが〒記号なんだ。単純でしょ。
   ほかにも説がいくつかあるけど、諸説あるときは一番おもしろいのを採用するという僕のモットーに沿って、この説を採用した。
   クマさん、どう?

クマ:「逓」の字が略字だということや、「遞」の成り立ちも知ることができて、おもしろいよ。

ヨネ:ところで、前島密(ひそか)さんを知ってるでしょう?

クマ:名前は知ってるけど、そんなに詳しくは知らない。それに、その言い方は何か発見したんでしょう。
   どういう事をやった人で、何を発見したのか教えてよ。

ヨネ:前島密さんは、近代郵便制度の創設者の一人で官僚、政治家。「郵便」、「切手」、「葉書」という名称を制定し、
   いくつかの切手にもなっている。すばらしい人だとは思うけどね。

クマ:なんで奥歯に物が挟まったような言い方をしてるの?

ヨネ:この人が漢字廃止論者なんだ。教育の普及のためらしいけど、漢字を廃止して平仮名を国字にせよと主張したんだよ。
   将軍の徳川慶喜にも建議したらしいよ。でも、この主張が通らなくて良かったと僕は思うよ。
   平仮名だけじゃ、表現の幅が狭まっちゃうし、文字を読んだり学んだりする楽しみもなくなって、つまらないよ。

クマ:そうだね。平仮名だけじゃ、こうして「漢字ウォッチング」の話もできなくなっちゃう。おもしろくも何ともないね。
   ほんとに良かったよ。

ヨネ:同意していただいたところで、次いくよ。


■羊の字 プラスイメージ 示す也 (ひつじのじ プラスイメージ しめすなり)

クマ:「羊」の字が人々にどんな印象を与えてきたのか、という話だね。「羊」がプラスイメージをもたれる理由があるの?

ヨネ:あるある。「羊」の字は3100~3700年ぐらい前にできたと考えられるんだけど、そのころの中国の人々にとって、
   羊はなくてはならない生き物だった。羊は、性格が温順で群れやすく、飼育しやすかったためと思われる。
   具体的には、肉やミルクは食糧、毛は衣服、皮はモンゴルのゲル(中国では「包(パオ、まんじゅうの意)」
   と呼ばれることもある)というテントのような家の材料として利用した。糞だって、ゲルの床下に敷いて断熱材にしたり、
   燃料にしたりした。また、羊は神様への供え物としても利用したんだ。羊には迷惑かもしれないけど。
   ところで、「羊」という字は象形文字だけど、まあ、シンプルに上手く特徴をとらえてるね。感心するよ。

クマ:ほんとだね。そういえば、「群」の字に羊が使われているね。そんなに群れやすいの?

ヨネ:そうみたいだ。サルみたいにリーダーを作らないから、例えば群れている羊の全頭を柵の中に入れたいときには、
   一頭を誘導すれば残りはついてくるらしいよ。ついていかないと不安を感じるらしいんだ。羊自身としては、
   何のために前の羊についていってるのか、分からないんじゃないかな。人間から見れば、恐るべき付和雷同ぶりだとも
   思えてしまうよね。まぁ、本当のところは羊じゃないと分からないけどね。

クマ:そういえば、シェパードが柵の中や、小屋の中に羊を追い込むシーンはよく見るけど、後から後からどんどんついていくね。
   「群」の字に使われる資格ありだね。

ヨネ:性格は温順で、群れやすいから飼育しやすい、食べれば旨く、服にすれば暖かい、皮は家の材料になるし、
   糞まで役に立つと、人間にとっては文句なしの動物だよね。「羊」を使って漢字を作るときにはプラスイメージしか
   浮かばないと思うよ。

クマ:なるほど。具体的にはどういうイメージがあるんだっけ?

ヨネ:例えば、うつくしい(美)、りっぱ(義)、ゆたか(洋)、めでたい(祥)……たくさんあるんで省略するよ。
   前に紹介した『漢字の成立ち辞典』(加納喜光・著、東京堂出版)の「羊」の項を見て下さい。ちょっとだけ付け加えると、
   数少ないが、「痒(かゆい)」、「恙(つつが=わずらい)」、「佯(いつわる)」などの
   マイナスイメージの字にも使われている。
   しかし、『漢字の成立ち辞典』では、羊のイメージとの関連性は不明と記載されている。「羊」を使った字があまりに
   良いイメージばっかりなんで、悪い字を作っちゃえという、ひねくれ者が作ったんじゃないかな。
   「羊」以外の字を使えばいいのにね。
   それと、触れておかなければならない字があるんだ。
   「遅い」の「遅」という字があるでしょう。これにも「羊」が使われているけど、「遲」が元の字で、
   「羊」ではなく「犀(さい)」なんだ。犀は行動がゆったりした動物と考えられていたんで「遲」という字に使われた。
   「遅」という字の使用頻度は高いよね。私も原稿が遅れるんで頻繁に謝りのメールで使ってる。自慢にならないけど。
   それはともかく、「遅」に「羊」が使われているのはおかしいと思うよ。できれば元に戻してほしいもんだね。
   クマさんどう思う?

クマ:「遅」が「犀」じゃなくて「羊」になってしまったのは、略化の誤りだね。画数が減るかもしれないけど、これはダメだ。
   僕も元に戻すべきだと思う。

ヨネ:意見が一致したところで、今日は終わります。それじゃあ、また漢字の話を聞いてよ。


筆者紹介

米村 元治(よねむら・もとはる)さん

・「熊本出身のクマモンではなくイナカモン」と、ご本人談。65歳。
・趣味は、漢字・スポーツ・将棋・麻雀等に関する雑学・裏話・エピソードの蒐集。
・「おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものは心なりけり」(高杉晋作・野村望東尼)の精神で、世の中をおもしろがることをモットーとする。語源、成り立ち、由来に諸説がある場合は、「モットーに沿っておもしろいものを採用する」とのこと。
・多くの人に接し、また朝礼など人前で話すことも多かった会社員時代に、話の題材を求めて書店で漢字の成り立ちの本を手にしたところ、それがきっかけで漢字にのめり込むこととなった。
・以後、「楽しい上に職務上も役に立つ」ということで漢字が好きになり、漢字教育士の資格を取得。
・漢字教育士として、川崎市中原区の市民講座で3回、イトーヨーカ堂のヨークカルチャーで6回の漢字講座開催実績あり。


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