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【矢作詩子さん】「詩子先生の漢字教室」(9)

お菓子と漢字のつながり 

はや連休も過ぎて新緑の美しい季節になりました。前回のこのコラムは桜餅の話題でしたが、今回も「葉包み」の食物のお話です。まず、若葉の季節にちなんだ漢字の部首のお話から始まります。


部首のお話

漢字の部首は、日頃はほとんど気に留められない存在です。出番があるとしても、たとえば“柏餅の「柏」は「きへん」に「しろ」と書きます”というように、漢字の字形を説明する時くらいではないでしょうか。けれども漢字にとって部首とは、その漢字の意味を知る上でとても役に立つものです。
自然の素材を使った和菓子の名前や由来をみてみると、さきほどの「柏餅」のほかにも、「葛餅」や「桜餅」など、部首の「?(くさかんむり)」と「木(き・きへん)」を含む漢字がたくさん出てきます。そこで、少し部首のお話をしておきましょう。


部首の歴史

部首と言えば漢字字典、と連想される方も多いことと思います。漢字を集めた書物である漢字字典は、中国では古くから作られてきましたが、最初は同義語・類義語集のようなものでした。
後漢の時代になると、許慎(きょしん)という学者が、形と意味によって漢字を分類した『説文解字(せつもんかいじ)』(西暦100年)という字典を作りました。つまり、字の構成要素の形も分類の基準とされたのです。
この『説文解字』では、分類されたグループの一つ一つを「部」と呼びました。「一部」「王部」「木部」などです。そして、それぞれのグループの最初に置かれた代表的な漢字(先の例で言うと「一」「王」「木」)は、「部」の最初(=首)ということで、「部首」と呼ばれるようになりました。これが「部首」の始まりです。
たとえば手元にある『新 漢語林』(大修館書店)の「『木』部」のページを開けると画数順に「木・札・朮・本・末・未・机……」という漢字が並んでいます。これらの字が木の意味を持つグループで、部首は「木」ということになります。

では、いったい部首は何種類ぐらいあるのでしょう?
『説文解字』では540の部首に分類されました。その後、種々の字典が編纂(へんさん)され、部首の整理・削減が行われました。清の時代に康熙帝(こうきてい、在位:1661~1722年)という皇帝の命令で編纂された『康熙字典』(1716年刊)では、214部に分類されましたが、現在の漢和辞典ではこれにならっているものがほとんどです。
なお、部首の呼び方として、その部首が漢字のどの位置に現れるかで区別しています。たとえば左側に現れるものを「偏(へん)」、右側に現れるものを「旁(つくり)」、上部に現れるものを「冠(かんむり)」などと呼びます。


「木」と「艸」

私の第5回コラムに書きましたが、お菓子の「菓」の元の字は「果」でした。この「果」という字は木の上に実がなっている姿の象形文字ですが、この字の中で最も重要な意味を持つ要素は「木」です。ですから部首は「木(き)」です。
この「果」が「はたす」という意味も兼ねるようになると、“草や樹木の実”の意味だけを区別して表す文字が必要になります。そこで「?(くさかんむり)」を付けて生まれた漢字が「菓」です。「くさかんむり」をつけることで、“植物”という意味を具体的に示す漢字を作ったというわけです。
「くさかんむり」は、「かんむり」という名称が表すように、「菓」や「葉」など漢字の上部に乗っかっているのですぐに見つかりますね。「くさかんむり」は、古くは「艸」という形で6画でした。現在は3画の「?」の形が使われていますが、漢和辞典の部首配列では6画の「艸」のところにあることが多いので、注意が必要です。
「木」は、字の左側にくると「きへん」と呼ばれ、たとえば「林」という字の部首は「きへん」です。が、「森」の部首は「き」なのでをつけなければいけません。小さいことに心を奪われて、全体を見わたすことができないことを「木を見て森を見ず」と言いますが、漢字学習では「木」も「森」もしっかり見ましょう。


部首ベスト10は?

日本最大の漢和辞典、諸橋轍次(もろはしてつじ)著『大漢和辞典』(大修館書店)には、何と約50,000字の漢字が収められています。社会生活の目安とされている常用漢字の数が2,136字ですから、そのスケールの大きさに驚きます。
『大漢和辞典』発行元の大修館書店が開いている「漢字文化資料館」というホームページには、漢字についてのさまざまな質問を集めた「漢字Q&A」コーナーがあります。ここに「部首のうち、一番所属文字が多いのは何ですか?」という質問があり(Q0072)、『大漢和辞典』に収録された漢字のうち、部首ごとの字数が示されています。
上位にはどんな部首があるのでしょうか?

1位は、やはり「艸」(くさかんむり)で、2,000字にものぼります。
2位は「水」(みず・さんずい・したみず)。
3位は「木」(き・きへん)。
このように、自然に関する部首ばかりです。
以下、4位「口」、5位「手」、6位「心」、7位「虫」と続きますが、8位には「竹」が入り、中国の竹文化の広がりが感じられます。さらに、9位には「人」と「言」が同数で並びます。以上がベスト10です。


5月のお菓子といえば

「柏餅(かしわもち)」の歴史

さて、木々の緑が目にも鮮やかなこの季節を代表するお菓子は柏餅ですね。
「かしわ(かしは)」の語源は「炊(か)し葉(は)」です。上代、柏の葉は食器として飲食物を盛ったり、祭祀具として用いられました。
また「柏」は、「朴葉味噌(ほおばみそ)」「朴葉焼き」などで知られる「朴(ほお)の木」の異名でもあるといわれます。いずれも日本では大きな葉を持つ代表種です。

蒸した上新粉の餅で餡(あん)を包み、柏の葉でくるんだ柏餅は、江戸時代半ばより江戸を中心に広まりました。柏の木は新芽が出るまで古い葉が落ちないため、子孫繁栄の意味があるといわれ、武家では庭に植える習いがありました。
餅の中の餡には小豆餡を用いますが、味噌餡のものも江戸時代から作られていました。白味噌は、砂糖がふんだんに使えない時代には甘味料としての役割もあったのです。中身が小豆か味噌かは、柏の葉の表裏で区別していたそうです。


「柏」と「かしわで」のかかわりは?

神社で神を拝むときに両手を打ち鳴らす礼拝作法を「かしわで」といいます。
柏が神聖な木で神が宿ることから「柏手(かしわで)」といわれるようになったという説があります。
一方、手を打って神を拝むことを古くは「拍手」と書きましたが、後に「拍」と「柏」が混乱したという説もあります。つまり「てへん」が「きへん」に誤写されたのでは? というわけです。現代なら変換ミスといったところですが、大いに有りうる気がします。他にも、拍手をする時の手の形が柏の葉に似ているなど、色々面白い説があります。


「粽(ちまき)」の歴史

5月の節句に欠かせない粽(ちまき)は、柏餅よりさらに古い歴史があります。
現代の日本では笹の葉で巻かれることの多い粽ですが、日本語の「ちまき」という言葉は「茅(ち)巻き」の意味であり、古くは笹ではなく、茅(ちがや)の葉で巻いたところから、この名前がついたそうです。

粽のルーツは中国にあります。戦国時代に中国南方にあった楚国の政治家で、詩人としても名高い屈原(前343~前278年)の故事に由来します。
当時、中国北西では秦国が勢力を広げていましたが、楚国の王がこの秦国に接近しようとしたことに対して、屈原は、秦国を信用してはならないと諫言(かんげん)しました。しかし聞き入れられず、屈原は長江支流の汨羅(べきら)の淵に身を投げました。
南朝・梁の呉均が著した『続斉諧記』という文章によると、屈原が入水した日が5月5日で、楚国の人々は命日に屈原を悼み、竹筒に米を入れて水に投じました。ところが、蛟龍(こうりゅう・龍の一種)に食べられてしまうので、厄除けに楝(おうち)の葉で包み五色の糸でしばって投げ入れるようになったそうです。これが粽の始まりといわれています。
元来は米を使ったので、「粽」という漢字は「こめへん」なのですね。

紀元前にドラマチックな人生を終えた憂国の詩人を、入水した地域では忍び続け、今でも命日に粽を投げ入れるそうです。日本の粽はすっかり変化をしてしまい、その由来などほとんど知られていませんが、中国では2000年以上も屈原に対する思いが受け継がれてきたことに驚きます。


東の柏餅・西の粽

5月5日の端午の節句は、縁起物として用いられる「菖蒲(しょうぶ)」が「尚武(武をたっとぶ)」に通じることなどから、武家では男子の節句として尊重されていました。また、柏の木が武家で重宝されたということを前述しましたが、柏の葉は旧暦の5月にみずみずしい新芽が出てきます。そこで子孫繁栄の願いを込めて柏餅が食べられたと言われています。このようにして、柏餅は江戸時代に武家社会を中心に東日本で広まりました。

一方、粽は関西でよく見られます。中国から伝わり、平安時代には宮中の端午の節句で粽が用意されたという記録があります。『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(934年)などの記述によると、当時は真菰(まこも)の葉で米を巻いて蒸していたようです。
この粽を葛(くず)の菓子に仕立て、笹の葉で巻いたのは京都の「川端道喜(かわばたどうき)」が最初だそうです。室町時代より御所に粽を納めてきた老舗(しにせ)として名高く、今も京都市左京区下鴨に店舗があります。
お菓子の粽の中身には、吉野の葛、餅、羊羹(ようかん)や外郎(ういろう)などを使い、これを笹の葉で幾重にも巻き、藺草(いぐさ)で締め上げ蒸して作ります。形も俵型や円錐形などがあり、笹の葉のすがすがしい移り香が楽しめます。

なお、7月の京都・祇園祭(ぎおんまつり)で、八坂神社や各鉾(ほこ)内で授与される粽は、食用ではなく、厄除けのお守りで、門口などにかけ、一年の無事と安全を祈念するものです。


(写真1)京都・祇園祭の「長刀鉾(なぎなたぼこ)」の粽

アジアの粽文化

粽の本家の中国では、もち米と豚肉やたけのこなどを甘辛く味付けし、竹の皮で巻いて藺草でしばり、蒸して作ります。中国では「肉粽(ロウツォン・にくちまき)」、日本では「中華粽」と呼ばれ、おなじみの中華料理の一品ですね。


(写真2)インドネシアの粽

粽は東南アジアにも広がり、インドネシアにも粽のような食品があります。
クトゥパット(ketupat)という名前で、四角形に編んだ椰子の若葉の包みに米を詰め茹(ゆ)で上げた食べ物です。断食明けの祭り(レバラン)につきものの、おめでたい食べ物です。椰子の葉で編んだこの四角の形は装飾にも使われ、20年以上前に住んでいた時は街のあちこちでせっせと編む姿が見られました。

食物を葉で包むと防腐作用のあることが知られています。ですが、何と言っても葉をむいて食べる時の芳香が、私にとって何よりのごちそうです。


自然の素材を巧みに取り入れたお菓子の話には、きへん、くさかんむり、こめへんなどを部首とする漢字や、口(くちへん)、食(しょくへん)などおいしい物に関連する漢字が頻繁に出てきます。次回もどんな素材を使ったどんなお菓子が出てくるか、お楽しみに!


〔参考文献〕

青木直己『図説 和菓子の今昔』(淡交社)
円満字二郎『部首ときあかし辞典』(研究社)
佐々木重次『最新インドネシア語小辞典』(Grup sanggar)
笹原宏之『漢字の歴史』(ちくまプリマー新書)
白川静『字統』(平凡社)
中山圭子『事典 和菓子の世界』(岩波書店)
虎屋文庫 第77回甘い対決「和菓子の東西」展(2014年11月1日~30日)資料
 


筆者紹介

矢作 詩子(やはぎ・うたこ)さん

1972年、同志社大学法学部卒業。大学在学中に大阪万博で通訳の経験をしたことがきっかけとなり、英語・日本語講師になる。1993年ジャカルタの法律事務所で日本語指導。帰国後、漢検準1級取得。2003年より学習院生涯学習センターで「おとなのための漢字学習」を11年間担当。武蔵野市、日の出町など自治体の漢字教養講座も担当。漢字教育士資格講座を受講して、白川文字学を学び、2013年「漢字教育士」・「漢字教育サポーター」資格取得。兵庫県芦屋市在住。


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