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【矢作詩子さん】「詩子先生の漢字教室」(10)

お菓子と漢字のつながり 

このコラムも最終回を迎えました。お菓子のシリーズ7回目は、まず「小豆(あずき)」をふんだんに使ったぜんざいのお話です。「ぜんざい」の語源には諸説あったり、関西の「ぜんざい」が、関東では「おしるこ」と呼ばれたり、次々と興味はつきません。


小豆の話

「あずき」の名の由来

まず小豆のお話から始めましょう。小豆は古事記にも書かれているほど古くからある食物です。「あずき(歴史的仮名遣いでは『あづき』)」ということばの語源ですが、一説では「あづき」のアは赤、ツキはトケ(解け)の意味で、他の豆よりはやく軟らかく煮えて解けやすいところからの名前であるといわれています(江戸中期の貝原益軒の『日本釈名(にほんしゃくみょう)』、江戸後期の菅原泰翁の『紫門和語類集』など)。小豆の赤い色は災いや病を払うと昔から信じられてきました。今でもおめでたい時に小豆入りの粥(かゆ)や赤飯を食べますね。

小豆は色や形も愛らしく、色鮮やかな皮をむくと中の豆は淡い色、というコントラストも魅力的です。羊羹で有名な虎屋の代表的商品「夜の梅」の銘は、羊羹の切り口の小豆が夜の闇にほの白く咲く梅を表すことから付けられたそうです。


「熟字訓」について

ここで漢字の話もしておきましょう。
「小豆」と書いて「あずき」と特殊な読み方をします。漢字二字以上の熟字全体に日本語の訓をあてて読むこうした読み方を、「熟字訓」といいます。「熟字訓」を当てることばは身近なものも多く、小学校で学ぶ例では「明日(あした・あす)」「七夕(たなばた)」「眼鏡(めがね)」などがあり、「田舎(いなか)」「土産(みやげ)」「紅葉(もみじ)」などは中学校で学びます。


「粒あん」と「こしあん」

さてその小豆ですが、日本では北海道の生産量が第1位で、粒の大きい物は大納言と呼ばれています。たんぱく質や食物繊維も多く含まれ、健康食としても人気があります。

あずきで作る餡(あん)は大きく二種類に分かれ、粒あんとこしあんがあります。
粒あん(粒餡)は小豆の皮を破らないように煮て歯応えを生かしたもので、こしあん(漉し餡)は小豆をゆでた後、裏ごしして豆の皮を取り除いたもので、口当たりが滑らかです。私はどちらかと言えば“粒あん派”ですが……


「あんこ」を使ったお菓子いろいろ

粒あんで思い浮かぶお菓子は、まず「おはぎ(お萩)」、「どらやき(銅鑼焼き)」(関西では「三笠」とも)、「きんつば(金鍔)」、「たいやき(鯛焼き)」などです。
一方、こしあんを使ったお菓子で、真っ先に思い浮かぶのは伊勢の餅菓子、「赤福」です。伊勢参りに訪れる客のために宝永4(1707)年から作り続けられているそうです。「赤福」の名は「赤心慶福(せきしんけいふく)」ということばからで、真心(赤心)を尽くして、人の幸せを喜ぶ(慶福)ことだそうです。
関東でこしあんと言えば、芋羊羹でおなじみの舟和本店の「あんこ玉」があります。1個丸ごとあんこのお菓子で、こしあんを寒天でくるんだまん丸いお菓子で、口の中で寒天と上品なこしあんがぷるんと転がります。こしあんもなかなか魅力的ですねえ……。

前回のコラムで取り上げた柏餅のほか、大福餅など、同じ名前で中身が粒あんのもの、こしあんのものの両方があるお菓子もたくさんあります。粒あんとこしあん、好みに合わせて選べるのはうれしいですね。
ところが、材料が粒あんかこしあんかで、あるいは汁気があるかないかで、呼び名が全く変わってしまうものがあります。それが「ぜんざい」と「おしるこ」です。


関西の「ぜんざい」が関東では「おしるこ」に

関西では、「ぜんざい」といえば一般に「小豆の粒あんが入った汁気のあるもの」で、「おしるこ」といえば「こしあんで汁気のあるもの」です。つまり、関西は粒あんかこしあんかで名前を区別しています。なお、汁気のない粒あんの場合は「亀山」と呼びます。大阪育ちの父の話によると、夏にはこの「亀山」にかき氷をかけて「冷やしぜんざい」のように食べたそうです。

それに対して関東では、汁気があれば「おしるこ」とひとくくりにします。
粒あんを使っていたら「小倉汁粉」または「田舎汁粉」、こしあんを使っていたら「御膳汁粉」と呼びます。「御膳(ごぜん)」とは、食品名の上に付けて上等であることを表すことばで、ここでは煮た豆をこして手をかけて作られる汁粉の意味です。
また関東では、「ぜんざい」は餅などに汁気のないあんをかけたものをいいます。

複雑なので、関西と関東の呼び方の違いを表にまとめてみました。



「ぜんざい」はなぜ「ぜんざい」か

「ぜんざい」発祥の地へ

おしるこの語源は「お汁粉」と表記すると、なるほど、とわかりやすいのですが、
「善哉」とも表記される「ぜんざい」の語源は何でしょうか?

ここで少し私個人の話になりますが……
去年(2014年)の春、12年間在住した東京から関西に戻りました。少し落ち着いたら、神話の地、島根県出雲市をゆっくり訪れてみたいと思っていました。JTBが出している旅行ガイド『るるぶ 松江・出雲』(2014年7月発行)を買ってきてページをめくっていると、美肌の湯で名高い玉造温泉や平成の大遷宮で賑わう出雲大社の特集が載っていてわくわくしていたところに、心をとらえる記事がありました。
出雲は「ぜんざい」発祥の地で、「出雲ぜんざい学会」という団体まであり、その直営店で出されるぜんざいが名物になっているというのです。ちょうどこの連載コラムを書き出したこともあり、これは是非“本場”の味を! と、出雲路へ家族旅行をすることにしました。


出雲の「神在月(かみありづき)」

出雲大社といえば、縁結びの神様として有名です。2014年秋に高円宮(たかまどのみや)家の次女・典子さまと出雲大社権宮司の千家国麿(せんげくにまろ)さんの結婚式が行われたことも大きな話題になりました。大鳥居をくぐり一歩境内に入ると荘厳な雰囲気が漂い、大しめ縄の本殿や神楽殿を巡るとすがすがしい気持ちになりました。

この出雲大社に、毎年旧暦の10月、全国から神々が集まり、男女の縁結びの会議を行うそうです。このため、出雲以外の地方では旧暦の10月を「神が無い月」→「神無月(かんなづき)」といいますが、ただ出雲だけは「神が在る月」→「神在月(かみありづき)」といわれています。


「神在餅」が語源?

参拝のあとは、いよいよぜんざいです!
『るるぶ』でも紹介されていた「出雲ぜんざい学会」という団体は、出雲観光協会内に事務局があり、世界に誇れる和の食文化「ぜんざい」の歴史と味覚を世界に情報発信することを目的に活動を行っているそうです。その「出雲ぜんざい学会」直営店の “日本ぜんざい学会壱号店”は出雲大社前の神門通りにあり、「ぜんざい」と書かれた小豆色の看板が目立ちます。早速中に入り、ぜんざい発祥のいわれを尋ねてみることにしました(写真1)。


(写真1)「日本ぜんざい学会壱号店」の看板

店の中の案内板には、以下のように書かれていました。

ぜんざいは、出雲地方の「神在(じんざい)餅」に起因しています。
出雲地方では旧暦の十月には全国から神々が集まり、この時「神在祭(かみありさい)」があり、そのお祭りの折に振る舞われたのが「神在餅(じんざいもち)」です。

お話によるとこの「神在餅(じんざいもち)」の「じんざい」が出雲弁でなまって「ずんざい」→「ぜんざい」となって京都に伝わったそうです。この神在餅説は江戸初期の朱子学者、林羅山(1583-1657年)が『梅村載筆(ばいそんさいひつ)』に記しています(「参考リンク」のPDFファイル、p.16に見えます)。

日本ぜんざい学会壱号店で出されたぜんざいはその名も「縁結びぜんざい」で、とろとろに煮た小豆の汁に紅白の丸餅入りです(写真2)。出雲大社は縁結びで有名ですが、出雲の地での「縁」とは男女の縁だけでなく、人と人とのさまざまな縁を表すということで、ぜんざいは味での縁結びを大切にしているとのことです。


(写真2)「縁結びぜんざい」

出雲市はぜんざい発祥の地として、街おこしに取り組んでいて色々な種類のぜんざいが楽しめます。出雲大社近くの観光センターでは季節限定ですが「いも神在(いも“ぜんざい”)」が味わえます(写真3)。
“「神在」と聞くと、なんだか勝負事のときなどにもいただきたくなるお菓子ですね!”
という人がいますが、確かに神様を近くに感じることができて不思議な力が出そうな名前ですね。


(写真3)「いも神在」

出雲大社近くの玉造温泉に泊まりましたが、その旅館では、毎晩ロビーでお餅つきをして、ぜんざいを振る舞っています(写真4)。旅館のロビーに座りやわらかい響きの出雲弁を聞きながら、つきたてのお餅に小豆をからめるだけの素朴なぜんざいを食べていると、「ぜんざい」はこの地が発祥だという「神在餅」説にすっかり共鳴してしまいました。


(写真4)旅館でいただいたぜんざい

「善哉」が語源?

「ぜんざい」の語源にはもう一つの説があります。「ぜんざい」の名づけの親は室町時代の禅僧、一休宗純(1394~1481年)だというものです。京都に伝わっていた餅入りの小豆汁を一休が食べて、おいしさに感動して「善哉(よきかな)!」と褒めたことにちなむといいます。
出雲から京都へ伝わり、江戸にも進出したぜんざいは、今も日本全国の色々な地で「よきかな」と褒めたくなる味に変化し続けているのかもしれないですね。こちらの説も捨てがたく思います。


6月の京都をいろどるお菓子といえば

京都の「水無月」

最後に、季節を代表する小豆の和菓子のお話です。
6月になると京都の和菓子屋は「水無月」という名のお菓子であふれます。いうまでもなく水無月とは旧暦6月のことですが、京都では6月30日の「夏越しの祓(なごしのはらえ)」には欠かせない伝統的なお菓子で、三角形の外郎(ういろう)生地に小豆の粒あんをちりばめたものです(写真5)。


(写真5)和菓子「水無月」

夏越しの祓(なごしのはらえ)

風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける(従二位家隆)
(風がそよそよと楢《なら》の葉に吹いて[もう秋が来たような涼しさを感じさせる]この「ならの小川」の夕暮れだが、みそぎが行われているのが夏の証拠であるよ)

百人一首でも有名なこの歌に見える「みそぎ」が、6月30日に行われる「夏越しの祓(夏越大祓とも)」です。旧暦では4月・5月・6月が夏でしたから、6月30日は夏の最後の日です。なお、「ならの小川」とは、京都市上賀茂神社の境内を流れる御手洗(みたらし)川です。

今も6月30日が近づくと、多くの神社で茅(ちがや)や藁(わら)などで作った大きな輪が置かれ、一年の前半の穢(けが)れを祓う夏越しの祓として「茅の輪くぐり」の神事が行われます。
写真6・7は東京都武蔵野市の杵筑(きづき)大社で撮ったものです。輪のくぐり方は、輪の横に図で示してあり、まず輪をくぐり左へ回り、右へ、左へと数字の8の形に進みます。これで6か月分の穢れが祓えるわけですから、この時期はスーツを着た人やヒールを履いた人などが神妙に茅の輪をグルグル回る姿もよく見られます。


(写真6)杵筑大社の夏越しの祓

(写真7)神事に用いられる輪

和菓子「水無月」のいわれ

そして、この夏越しのお祓いを済ませたあとに、これからの半年の無病息災を願って食べるのが、三角形の白いういろうに小豆の入った「水無月」です。
「水無月」の形は氷を表しているとの説があります。旧暦の6月は、新暦で言えばだいたい7月から8月初めにかけての最も暑い時期です。冷蔵庫の無い時代、冬に集めた氷は、山中や地下に設けた氷室(ひむろ)に貯蔵しておき、夏にはここから氷を切り出して宮中などに運んだそうです。三角の白いういろうは、氷を口にできなかった庶民が、氷のかけらに見立てたものだというのです。
そして小豆には、邪気をはらうという言い伝えがありますが、同時に栄養価の高い小豆を食べて暑気払いをしようという生活の知恵も、「水無月」からうかがえます。

「水無月」は、7回目のこのコラムでもとりあげた「ういろう」に小豆パワーをプラスした、先人の叡知の結晶のようなお菓子です。暑い夏を乗り切り、今年の後半も元気で過ごせるようにと願いつつ、これでお菓子シリーズの締めといたします。


おわりに

10回続いた「詩子先生の漢字教室」は、これが最後になりました。毎回熱心に読み、感想や意見をお寄せくださった方々にお礼を申し上げます。何よりの励みになりました。元受講生の方からは“先生の声が聞こえてくるようです”との嬉しいメールも届きました。また、“コラムを読んで、漢字を勉強しようと思いました”との感想も頂き、まさに「漢字教育コラム」冥利に尽きるものです。拙い文ですが、執筆の機会を頂き幸せでした。アドバイス頂いたZ会の大橋さんにもお礼を申し上げます。

お菓子のシリーズは、11年間担当した学習院生涯学習センターの漢字講座でも何度かとりあげましたが、コラム執筆にあたり更に美味しいリサーチを重ねました。その結果、思わぬ歴史や文化的背景にも触れることが多くあり、以前に増して出歩くことが楽しくなりました。食べたお菓子も数知れず……。お菓子だけでなく、身近なものに漢字学習の面白いヒントや再発見がたくさんあります。このコラムが何かのきっかけになれば嬉しく思います。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
ご縁がありましたら、またお目にかかりましょう。


〔参考文献〕

青木直己『図説 和菓子の今昔』(淡交社)
井上宗雄『百人一首を楽しく読む』(笠間書院)
円満字二郎『漢字ときあかし辞典』(研究社)
笹原宏之『訓読みのはなし』(角川ソフィア文庫)
中山圭子『事典 和菓子の世界』(岩波書店)
『日本国語大辞典』(小学館)
虎屋文庫 第77回甘い対決「和菓子の東西」展(2014年11月1日~30日)資料


筆者紹介

矢作 詩子(やはぎ・うたこ)さん

1972年、同志社大学法学部卒業。大学在学中に大阪万博で通訳の経験をしたことがきっかけとなり、英語・日本語講師になる。1993年ジャカルタの法律事務所で日本語指導。帰国後、漢検準1級取得。2003年より学習院生涯学習センターで「おとなのための漢字学習」を11年間担当。武蔵野市、日の出町など自治体の漢字教養講座も担当。漢字教育士資格講座を受講して、白川文字学を学び、2013年「漢字教育士」・「漢字教育サポーター」資格取得。兵庫県芦屋市在住。


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